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舞台「エッグ」

舞台「エッグ」_c0181920_1013526.jpgNODA・MAP 第17回公演
エッグ
作・演出:野田秀樹
会場:東京芸術劇場プレイハウス
日時:10月10日(水) 19:00~

リニューアル・オープンしてから
初の東京芸術劇場での観劇でした。
劇場はちょっと綺麗になっていました。

面白かったです! 
怖くもあり、重いメッセージを含んでいる。スピーディーな展開で、野田さん独特の言葉遊びやメタファーがてんこ盛り。

【主な登場人物】
阿倍比羅夫(あべひらふ):妻夫木聡、苺イチエ:深津絵里
粒来幸吉(つぶらいこうきち):仲村トオル、
オーナー:秋山奈津子、平川:大倉孝二、お床山(とこやま):藤井隆
劇場案内係・芸術監督:野田秀樹、消田(きえた)監督:橋爪功

阿倍比羅夫(あべひらふ)は、蝦夷を服属させた将軍・阿倍比羅夫(あべのひらふ)と同名。この劇では裸足で走る場面が何度かあって、阿倍→アベベを連想させる。
粒来(つぶらい)幸吉は、悲劇のランナー円谷(つぶらや)幸吉に
ちなんでいるのだろう。

前半はエッグというスポーツに取り組む若者たちを描いているが、それは寺山修二の未発表の戯曲『エッグ』の上演という形態で表現され(劇中劇)、入れ子構造になっている。冒頭は近未来が舞台だと思っていると、選手たちは1964年の東京オリンピックを目指していることがわかり、次にそこから1940年の幻の東京オリンピックに舞台が移る。登場人物が過ごす時間は進んでいくのに、時代は遡るのが面白い。



エッグというスポーツの実態が徐々に明らかにされていく。
卵からワクチンを製造し、生物兵器の研究もしたと言われる731部隊を彷彿とさせる。労働力として搾取された選手たちの中には人体実験に使われた者もいた。ここで行われたことの記録はすべて消される。敗戦が近づき、権力者側の人物たちは逃げ延びるが、置き去りにされた人たちがいた。

苺イチエと阿倍比羅夫、粒来幸吉との三角関係の話でもある。ずっと粒来を追いかけていた苺は、最後に阿倍に寄り添う。切ないラスト。そして、阿倍を切り捨てたオーナーたちは1番大事な人を失う.....

いろいろなテーマが盛り込まれている。
外科医と聞くと男性を想像するといったジェンダーへの思い込み。情報の格差の問題。権力者側は戦局について情報を得ているが大衆は知らない。苺イチエは自分の目の前で起きていることにずっと気がつかなかった。主人公の阿倍比羅夫は東北出身。運命に弄ばれた彼の不幸が現代の東北を襲った大惨事にリンクしているようだった.....

ロッカーが舞台装置として機能的に用いられるのは最初は目を引いたが、多用しすぎて、そのうち少し飽きた。ロッカーが棺や列車に変わるのはよかった。ビニールシートの向こう側で人々が苦しむ姿はナチスによるガス室での虐殺にも重なり、恐ろしかった。

役者さんたちは皆さん好演。アンサンブルも機敏な動きを見せていた。妻夫木 聡さんが柔軟で、剛の仲村トオルさんと好対照(仲村さんの筋肉美は凄いw)。深津絵里さんがしなやかで上手く、秋山菜津子さんは強い女性の役が合う。橋爪 功さんは味があり、のらりくらりした役を巧みに演じていた。藤井 隆さんがよく通る声でコミカルな役をこなし、大倉孝二さんの個性が光る。野田秀樹さんが女性の劇場案内係で走り回り(笑)、実際と同じ芸術監督役を兼ねる。

スポーツを描く設定から始まって、音楽の要素(椎名林檎さんの曲)も取り入れて、最終的に戦時の満州や731部隊を描いた本作は、歴史という過去へ導く仕掛けだったのかもしれない。起きてしまったこと(=歴史)を忘れてはならないということがメッセージではないかと思いました。
by moonlight124 | 2012-10-20 23:59 | 舞台 | Comments(0)
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